民家改修への想い

 <まだまだ残る民家集落>

 

2014年に事務所の場所を移転し、住まいをする地域から生駒の一番北の端の北田原まで20分かけて車で通っています。道中、牧歌的な風景を見ながら車を走らせているのですが、田園風景の中に点在する人家集落がとても立派なことに改めて気が付きました。周囲の農地と共に存在するどっしりとした民家群。住まいの形態は農という生業を基としたつくりですが、自然に即した暮らしの「場」の豊かさが感じられ大変魅力的です。今日まで集落全体として残ってきた地域には、何らかの共通意識があるように感じられます。

 

日々このような風景を見ているうちに、100年後200年後も変わらずこの風景とここでの暮らしが在り続けることができれば、と次第に思うようになりました。元々古い建築物は好きでしたが、もし都会で設計活動をしていたらこのような想いは抱かなかったかもしれません。身近な環境の影響は大きいと思います。


最近は空き家になっている民家も多いようで、解体されているところを見る機会も増えてきました。ある場所で築100年を超える堅牢なつくりの空き家民家が解体され、現代的で簡単な家に建て替わりました。一般的な住宅地では見慣れているような家でも、民家の立ち並ぶ風景の中に在ると違和感があります。元の民家がとても良い建物だったということもあり、近所の方も残念に思っているという話をお聞きしました。

民家が空き家になり土地建物を手放されるのは所有者さんの事情によるものなので、その後の変化は避けられないことですが、元の民家に魅力を感じる方に住み継いでもらうことが出来ればと思いました。


奈良にはまだまだ多くの民家集落や町家の町並みが残っています。建築にかかわるものとして、民家の魅力や民家再生のことを伝えていければと思っています。


 

<民家や町家は住み継がれてきた>


昔は家づくりに1年半程度の期間を要しました。現代の家づくりと違いすべてが手仕事でつくられたということもありますが、左官壁の各工程(表・裏返し塗り・中塗り・上塗り)で、土を乾かすのに時間がかかることも工期が長い理由です。現代の家づくりに要する期間を6か月とすると、その3倍の時間がかかり、また、3倍の費用がかかりました。その代わり、3世代以上の子孫がその家に暮らしましたので、長い目で見ると同じことだと考えることもできます。長く住み続けることを踏まえて良い普請をし、大切に住み継ぐという考え方だったと思います。

家業の継承と「家ありき」という概念が、現代の考え方やライフスタイルに合わないことも民家が住み継がれなくなった原因のひとつだと思いますが、建物としては立派なものであることに変わりありません。現代のライフスタイルに合う快適な住まいに改修することで、長く愛される住まいとして再生することができると思います。

 

 

<改修の考え方>

 

元の建物の良さや特徴を活かしながら、できるだけ昔ながらの素材を使って改修するようにしています。木部は傷んだ部材の差し替えや柱の根継ぎ、構造の耐震補強も行い、全体として傷みの発生する原因を解決するように改修します。また、民家のマイナス点である冬場の寒さを解消するために断熱改修も行います。

昭和の頃の改修で新建材が使われているところも多くみられますが、建材が使われている箇所で傷みが発生していることもあります。改修工事をすることでかえって建物の寿命が縮まっては元も子もありませんので、仕上げ材や断熱材の選定、構造の補強方法には注意をはらっています。

 

次の改修時期をおおよそ50年後と想定し、それまで維持管理がし易く快適に暮らすことが出来るような設計を心がけています。

 

 

<古建具の再利用>

 

 古建具もふんだんに再利用しています。古い建具は、使われている素材やつくり、意匠的にも良質なものが多く、そのまま使えるものもたくさんあります。100年以上前のものでも良い状態で使っています。傷みのあるものはきちんと直すことも出来ます。

 

古建具の再利用についてはブログでも紹介させていただいています。

 

 

襖の引手も良質なものは再利用しています。引手などの金物も良いつくりのものが多くみられます。

写真の引手は135年前のものです。少し傷みがありましたので補修して再利用しました。この襖紙は新たに張り替えた京唐紙です。鳥の子紙に木版で雲母を刷ったもので、様々な伝統文様があります。

 


 

<左官壁・土壁>

 

左官壁の仕上げも、現代の改修で化学糊の入った既調合のものが上塗りされていることがありますが、それらは落として土や漆喰を使った仕上げとしています。

自然の素材のものは古くなっても経年美があります。

 

この写真は町家の居室の壁ですが、元々和紙の腰張りが施されていた土壁を一旦落として塗り直し、新たに湊紙を張って仕上げています。このような腰張りの壁は茶室に多く見られます。

 

土、和紙、畳などの自然素材は柔らかくて繊細な素材ですが、その弱さが日本らしさであり魅力でもあります。

 

<古民家に見るさまざまな銘木>

 

この写真は、大正期に建てられた町家の床柱です。

野趣あふれる古木が使われており、当主の洒落た感覚が今を生きるわたし達の目を楽しませてくれます。

大きな大黒柱や太い梁、煙返し、差鴨居、長い軒桁、床柱や床の間まわり、天井板等をみていると、建築時の当主と棟梁の想いが伝わってきます。特に銘木の使い方にはこだわりが見られます。

 

住み継がれてきたご家族の想いと建物の歴史に敬意を表しながら、次の時代につなげていかなければならないと使命を感じます。

 

 

<改修と職人の技能>

 

このような建物の改修は、大工や左官、建具など職人さんの技能(手の仕事)があってこその改修工事になります。しかしながら、昨今の建築工法は工場で作られたものを組み立てるようなシステムのものが大半なので、職人の伝統的な技能を活かす仕事は激減しています。

技能の継承が途絶えてしまうと、将来的に民家に相応しい改修工事が出来なくなってしまいます。伝統的な技能で修理や改修のできる職人が居なくなると、結果的に集落の風景や伝統的な町並みも未来につなぐことが出来なくなってしまいます。

 

このように、民家や町家を本来的な方法で改修するということは、改修の現場が職人の技能の伝承の場になっているという別の側面があります。

現在は伝統的な建物に対応できる大工や左官職人がいらっしゃることを、多くの方に知っていただきたいと思います。また、伝統的な仕事を望んで職人になった若い方もおられますので、古い建物を改修する機会が増えることを望んでいます。


民家をお持ちの方や、これから民家に住んでみたい方など、ご興味のある方は是非ご連絡ください。
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民家町家の改修事例では、改修前や工事中の写真も掲載していますので、ご参考いただければと思います。

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木の住まいの設計

一級建築士事務所 FRONT design 

奈良県生駒市北田原町1052-2

 岩城由里子

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